黒谷和紙

黒谷和紙の活用事例Case Studies

染司よしおか様

幾重もの記憶と色を受けとめる強さを

江戸時代から続く、京都の老舗染屋「染司よしおか」。
工房を訪ねると古の色を今に伝える美しい植物染めが
色鮮やかに訪れる人を出迎えてくれます。
そんな工房には、毎年冬になると、京都・綾部の地から黒谷和紙が届けられます。

その使途は、まだ寒さの残る早春の三月に、奈良・東大寺二月堂で毎年催される、
1200年以上もの歴史を持つ伝統行事「お水取り」で使われる和紙を染めるため。

その行事の中で行われる「花拵え(はなごしらえ)」という、
東大寺の僧呂が奉納のために、椿の造花を作る際の花びらとなる染め和紙として、
黒谷和紙は染められてゆきます。

流れるような作業で、手早く、美しく和紙を染めてゆくためには、
丈夫で、強い特徴を持った黒谷和紙が相応しいのだと語って頂きました。

そして、遠く伊賀の地から運ばれた紅花で、時間をかけ、じっくりと染料を作り、
一枚一枚丁寧に色を重ねてゆく時、紅花の落ち着いた深い赤色が和紙の上に広がり、
黒谷和紙は、来たるべき春に、花を咲かせるための花びらとして、新たな命を宿し、
静かにその時を待ち受けます。

そうして束の間の時が過ぎた早春の三月に、
人から人へと様々な想いと記憶を受け止めながら旅を重ねた黒谷和紙は、
美しい椿としてそれぞれの花を咲かせてゆきます。

日本古来の伝統色を追求する「染司よしおか」の積み重ねて来た色の記憶と、
東大寺に根差す、古からの深い祈りの記憶。
それぞれの記憶が交錯する先に、黒谷和紙は今年も静かに花を咲かせていました。

染司よしおか様

605 0088
京都市東山区西之町206-1